野鳥の撮影は難しい。たまたま野鳥の姿を目にしてシャッターを切ってはみたものの、どこに鳥が写っているのか探すのに苦労したという話をよく耳にする。
野鳥はもともと小さな被写体であり、そのうえ一定の距離以内にはなかなか近づかせてもらえない。必然的に鳥を撮るためには大きなレンズ、一般に超望遠と言われる 400 ミリ以上のレンズが必要になってくる。そしてレンズは望遠に傾くほど、また明るいレンズになるほど大きくて重くなる。しかも手ブレを防ぐためにはレンズの重量以上の重さの三脚が必要だと言われてきた。
これらの機材を持ち歩くためには当然ある程度の体力が必要である。 40 代も半ばを過ぎてバードウォッチングに取りつかれた私は、当初こそ 800 ミリのレンズを担いでまわったりしていたが、年齢とともに膝や腰への負担が増してきて、近年、ウォッチングはともかく、撮影の方はそろそろ諦めねばならぬかと思いはじめていた。
ところが 2000 年秋、それまで素人には手が届かなかったデジタル一眼レフに軽量普及機が登場し、これを手にしたときから状況は一変した。この製品はデジタルカメラでありながら従来の交換レンズを使用でき、操作も銀塩カメラ(フィルムを使うカメラ)とほとんど変わるところがないという代物で、プリントの出来栄えも充分満足のいくものであった。加えてレンズの方も小型軽量化されたおかげで、 400 ミリF 4 レンズ(このデジタルカメラでは 640 ミリに相当)を肩にかけて森のトレイルに入って行けるようになった。レンズとボディーを合わせるとまだ 3 キロ近くの重量があるとはいえ、スタビライザー(手ブレ補正装置)の助けも借りて、常時手持ち撮影が可能になったのである。重い三脚を担いでまわったり、三脚を据えている間にシャッターチャンスを逃したりしていたことを思えば、これは画期的なことであった。
デジタル写真には銀塩写真に比べて数えきれないほどの利点がある。切手大ほどのメモリーカードで 200 コマ近く( 256 メガバイトのカードで 300 万画素の画像を)の撮影ができる。結果を瞬時にモニターで点検でき、失敗したショットは消去できる。撮影条件をショットごとに変更できる。撮影データを保存、閲覧できる。さらにパソコンを使ってトリミングなどの画像処理をいとも簡単に実行できるのである。旅先の宿でモバイルパソコンにその日撮影した画像を取り込み、ワイングラスを傾けながら1コマ、1コマ出来不出来を点検する。こんなことも銀塩時代には考えられないことであった。
そして 2001 年末、先のデジタルカメラに画素数が約 2 倍、 630 万画素の後継機が発売された。私のような素人の目には最早、画質の面でも銀塩写真に何ら劣るところがないと思えるプリントの出来栄えであった。しかもデジタルカメラは今なお加速度的な進化の道を驀進中なのである。玄人のカメラマンあるいはマニアックな野鳥写真家でなくても、フツーのバードウォッチャーが何の気負いもなく鳥の写真を撮れる日がもう目の前に来ているように私には思われる。
バードウォッチングを始めて 17 年、世界中で棲息する 9000 種余りの鳥のうち、およそ
2290 種を見ることができた。記憶に頼るだけでは次々と忘却のかなたに消え去るそれらの鳥たちの姿も、写真に納まったものだけは確実に手元に残り、記憶を新たにすることができる。電子技術の進歩のおかげで、諦めかけていた野鳥撮影をもうしばらくは楽しめそうな目途がたつと、これまでに撮り貯めた写真を少し整理してみようかという気になった。その結果がこの小冊子である。
鳥の姿を求めて諸国を遍歴するのはお遍路にも似ているように思われる。 結願がいつ、どこなのかわからないが、体力、気力の続く限り歩いてみたい。
2002年12月記
谷 英雄
館主履歴書
1937年 熊本市生まれ。
1948年より北九州市在住。
1985年 趣味としてバードウォッチングと野鳥の撮影を始める。
2000年 銀塩写真からデジタル写真に転向。
2003年 写真集「鳥遍路」を出版。
日本野鳥の会会員。 |